豪日基金だより

メルボルン視察を実施しました。

2026年2月16日から3日間、オーストラリア・メルボルンにおいて、プライマリヘルスケアで働く看護師とその実践の場のシステムを学ぶため、複数の診療所および関連組織の視察を実施した。
本視察では、地域に根ざしたケアの実際、看護職の専門性の発揮、そしてそれを支える教育・政策・組織の在り方について、多角的に理解を深める貴重な機会となった。

第1日 Medical One Clinic

視察の第1日目はメルボルンから電車で約1時間にある近郊の町、Waurn Pondsにあるクリニックを訪問した。ナースマネージャーが迎えてくれたスタイリッシュで広々とした建物に、トリアージルーム、診察室、検査室などがあり、リハビリ、Podiatry (足の専門科)が併設されていた。豪州の伝統であるMorning Teaをいただきながら、豪州の医療システムの概要(GPがゲートキーパ―として、軽症疾患(コモンイルネス)への対応、継続的な慢性疾患管理、および専門科への紹介を行うなど)、またクリニック(Medical Oneは、メルボルンやシドニー近郊でGeneral Practice(GP)クリニックを経営するグループ)の診療内容についての説明があった。

Medical Oneの入り口にて Medical Oneの入り口にて
Medical Oneの概要説明 Medical Oneの概要説明
モーニングティーにて モーニングティーにて


クリニックでは医師10名、看護師3名が勤務しており、看護師はトリアージ、慢性疾患管理(看護外来)、ワクチン接種、鉄剤点滴、創傷ケアなど幅広く、専門性を活かした役割を担っていた。主に行っているワクチン接種は共通のオンライン登録システムで管理されており、医師の指示のもと看護職が接種していた。印象的だったのは、ワクチン履歴手帳に関して、保護者のみでなく就学前の5歳の子供に対して、視察者に手帳をみせてもよいか?と同意を得ていた場面で、「患者中心のケア」が、日常の実践として根付いていることを実感した。また、青年期の女性を中心とした鉄欠乏貧血のための鉄剤点滴や、避妊インプラントの挿入の技術認定をうけた看護師による実践がより広く行われていることなど、ウィメンズヘルスがプライマリケアにおいても広く実践されている実際を見学できた。

処置室での会話、手前に立っているのがクリニックの看護師
処置室での会話、手前に立っているのがクリニックの看護師


多くのクリニックは慢性創傷ケアも担っており、当日はConvatec Wound Specialistから慢性創傷、また創クレンジングに関するガイドライン(International Wound Infection Institute)をはじめ、創傷ケアに関するアップデート、またAquacelAGの製品説明があった。このような外部の教育的サポートを得ながら、看護職を中心にガイドラインに基づく丁寧なケアが行われていたのが印象的であった。

創傷スペシャリストからの説明を受ける 創傷スペシャリストからの説明を受ける


また、 Primary Health Network(PHN)1の代表者より、その役割とクリニックとの協働についての話を聞く機会を得た。PHNは、各地域におけるプライマリケアの質向上を目的として全国31地区に設置された独立組織であり、地域の健康ニーズの評価、APNAをはじめとした関係機関の連携、必要なサービスの創出と質管理、医療従事者の教育や質向上活動の支援などを担っている。各クリニックとも密接に連携し、訪問したクリニックにもデータに基づく評価・フィードバックをはじめ、質向上活動として更年期症状のスクリーニングを行いWomen’s Health をすすめていることが紹介された。

1参考サイト:https://www.health.gov.au/our-work/phn/what-PHNs-are

PHNの担当者からウィメンズヘルスに関するクリニックでのプロジェクトの紹介を受ける
PHNの担当者からウィメンズヘルスに関するクリニックでのプロジェクトの紹介を受ける

第2日 Summerhill Medical Center

メルボルンの中心部から電車で1時間、ショッピングセンターの一角にあるクリニックは、正面に大きく “Bulk Billing”(Medicareへの直接請求、窓口負担なし)と書かれており、立地も含め、アクセスのしやすさが特徴的である。長年クリニックに勤務するヘッドナースから、“chronic disease management(慢性疾患管理)” プログラムに関する説明をうけた。本プログラムは6か月以上の症状を持つ患者を対象に、GPを中心とした多職種による介入が行われ、メディケアにより支払われる。看護職は、既成フォーマット「問題‐目標‐目標達成のために自身で行うこと‐目標達成のために必要なサポート」を用いて、包括的ケアプランを作成していた。そこには、個人の健康やケアは本人が主体的に決定し、医療はそれを支援するという「当事者中心」の医療の姿勢が明確に、示されていた。このケアプランにそって、患者教育、他科・リハビリなどへの紹介、がんスクリーニング等の健康維持、および精神的側面をふくめた包括的健康アセスメントが行われている。綿密なアセスメントとケアプランを作成する一方、課題として、上記の看護外来は1時間弱を要し、その他の業務との兼ね合いが難しいこと、医師名での請求が必要なこと、新任看護師へのトレーニングが必要であること等があり、専門職が能力を発揮するための組織管理の重要性が再確認された。

また、本クリニックの立地環境要因として、多様な背景(民族、言語など)の通院者が多く、わかりやすい言葉や図を用いた説明、また文化的背景を考慮したコミュニケーションの重要性も指摘され、外国ルーツの患者が増える本邦の医療にとっても示唆深かった。APNAはこの慢性疾患管理に関する6か月の教育プログラムを提供し、豪州の各地で実践が広がっているとのことであった。

クリニック前で集合 クリニック前で集合


さらに、クリニックの質向上活動として、看護師は飲酒や喫煙などの社会的背景要因の記載が記録として記入されているか、適切な診断名の記録といった質指標のモニタリングを行っていた。看護師をはじめ医療職がアセスメントを行うとこれらの指標が改善することをデータで示し、看護外来の妥当性のデータとしていた。その他、ガイドラインの更新に伴う実践サポートルールのアップデートや新薬の説明、施設・業務規約と手順の作成と見直し、非医療職を含めた院内教育を行っていた。また、大学と連携し、認知症のコホート研究やCOPD管理に関する研究に参加しているとのことであった。このように多様な活動を担うヘッドナースからは、「プライマリケアで働く看護師は数が多く、かれらが緩和ケアやメンタルヘルスなどをしっかりできれば、プライマリケアの質が確実に上がる。APNAをはじめとした教育はとても重要。また看護職はこれまで自分たちの実践を外に十分に発信してこなかった。日々の実践、そしてその効果(経済的、患者の健康への影響)について明確に伝えていくことがとても大切」とのメッセージをいただいた。

Australian Primary Healthcare Nurse Association (APNA)

2日目の夕方はAPNAのオフィスを訪れた。APNAは、オーストラリア国内でのプライマリヘルスケアに従事する看護職をアドボケイト(擁護)する職能団体として、継続教育、政策提言、関連組織との協働、また広報を行っていることなどの説明があった。日本の視察者からは「どのように看護師が自律的に(やる気をもって)継続教育を続けていくことができるのか?」と質問、「看護師はプロフェッショナルとして、自身の知識や技術を高め、質の高い医療を提供することが求められる。このような姿勢は全ての看護師に求められる職業スタンダード(基準)であるものの、多くの看護師は実践をはじめ数年たってその必要性を実感する。その際にAPNAは看護師がどれだけ重要な役割を担っているか、広報や大会(Festive of Nursing)で積極的に伝えている」とのことだった。実際、APNAが作成しているポスターや雑誌は、看護師が自信にあふれて活き活きと実践にしている姿、また各地域での看護実践がどのようにその土地の住民の健康課題を解決しているかを伝え、現場の看護師の動機付け、エンパワーメントを行っていた。今回の視察についても、視察者の交流を通した双方の学びについてホームページで伝えている。

また、視察したクリニックでは、避妊インプラントの挿入、ワクチン接種、慢性疾患管理など、現場で求められる実践に対し、看護職は研修プログラム等を通して知識と技術を習得し、認定を受ける仕組みが整えられていた。これにより、実践の安全性と質が担保されると同時に、看護職のやりがいの向上にもつながっていた。視察者からの「どのように継続教育(知識・技術)の質を担保しているのか?」の質問に対し、継続教育・キャリア開発支援として、APNAが提供する無料のアプリ「フローレンス」が紹介された。キャリア教育の枠組みに基づき、目標設定や適切なプログラムの選定、さらに進歩状況を把握、可視化することができるのことであった。

さらに毎年行う看護職の実態調査から、現行の実践は看護師の能力を十分に反映していないことを示し、薬剤の処方など実践範囲の拡大への政策提言を行っていること、また看護のみならず、薬剤師やリハビリテーションなどの関連団体との協働関係をすすめることで、より大きな一つの「声」となることを、昨年度政府がまとめた報告書「Unleashing Potential of our health workforce」を例に示した。

APNAの受付にて APNAの受付にて

第3日 Spring Medical Clinic

最終日には、車で草原地帯を1時間半走り、温泉をはじめOrganic Farming でも有名なDaylesford にあるSpring Medical Clinic を視察した。広い建物に近隣の子供たちの描いた絵が掛けられ、カラフルで明るい雰囲気のクリニックだった。クリニックでは、AI機能を搭載した心エコーを用いた看護師による心不全の早期スクリーニングをふくめた介入研究Practice Nurses to Augment the Clinical Evaluation and Care of people at high-risk of Heart Failure(PANACEA-HF)が行われており、担当の看護師からスクリーニングの説明と実際のエコー検査を見学した。この研究結果は今後、学会での発表も予定されており、心不全の予防的介入の効果を世界が注目しているとのことであった。

また、創傷ケアでは、実際の通院者の方とも会話することができ、地域の方が看護師と信頼関係を築き、継続的なケアの提供が行われている場面を見学できた。本クリニックは、出会ったスタッフが実にやりがいにあふれて活き活きと働いているのが印象的であった。視察者より、この喜びにあふれた雰囲気とモチベ―ションの高さをどのように支えているのか、とマネージャーに尋ねたところ「スタッフへの感謝を示す機会を多く作り、そして誕生日など、みんなで祝う機会をできるだけ持つようにしている」とのことであった。スタッフ一人ひとりが大切にされている、と感じることができる職場づくりについても学びの多い視察であった。

クリニックのマネージャー、スタッフらと AI搭載のエコーを用いたデモンストレーション
クリニックのマネージャー、スタッフらと AI搭載のエコーを用いたデモンストレーション
クリニックのマネージャー、スタッフらと AI搭載のエコーを用いたデモンストレーション

Young People’s Health Service

最終日の午後は、経済的困難、家庭内暴力や社会的疎外などによって帰る場所がなく、医療、生活支援、また宿泊施設が必要な12歳から24歳の青年を対象とした支援プログラムを視察した。メルボルンの中心地で主要な駅の近くにあるアクセスのよい建物に入ると、職員はみな私服、内装もとてもカジュアルで明るい雰囲気であった。宿泊階は居心地のよいラウンジの周りに複数の部屋が設けられ、音楽や料理といった活動のための部屋があった。この施設では3人のナースプラクティショナーを中心にワクチンやヘルスアセスメントの他、ワクチンやMental Health やSexual Healthを含めプライマリケアの提供を行っていた。ロイヤルチルドレンズ病院に附属しており、必要時に専門的ケアへつなげている。社会的支援としては、ソーシャルワーカーを中心に、就職相談や自立生活への支援などが行われている。政府からの公的資金で運営されているが、宿泊施設は十分な数がないとのことであった。本プログラムはメルボルン近郊のアウトリーチも、2週間に一度、サテライトサイトにて行っており、必要時は母国語で対応できるよう通訳がつくとのことであり、若者がアクセスしやすい仕組みが整えられていた。

スタッフらと記念撮影(普段は、宿泊者のコモンルームとして使用)
スタッフらと記念撮影(普段は、宿泊者のコモンルームとして使用)

まとめ

本視察を通じて、プライマリケアにおける看護職は、臨床での実践にとどまらず、慢性疾患管理、予防、教育、提供するケアの質改善、研究、政策提言といった多様な役割を担い、リーダーシップを発揮していることを学んだ。そして、このような看護職の専門性を十分に活かした実践には、継続教育、データ活用、組織的支援、そして専門職としての発信が重要であり、APNAのような職能団体が、現場で活動する看護職にとって力強いサポートとなっていることに大きな感銘を得た。その他、当事者主体性の推進、職場のエンパワーメント、またケアの届きにくい集団へのアプローチなど、本視察で得られた知見は、日本におけるプライマリケア看護の発展に向けた重要な示唆となった。

豪日基金の助成をいただきました!

2025~2026年の1年間にわたり、日本プライマリ・ケア連合学会の看護部門、国際交流部門のメンバーを中心に実行します(助成窓口は広島大学)。

タイトルは、Leadership in Action: Empowering Nurses in Primary Care(プライマリ・ケア看護におけるリーダーシップとエンパワメント)です。プログラムは、専門職交流を通じて、オーストラリアと日本における看護師、特にプライマリ・ケアに従事する看護師職に対して、協働的デザイン(コ・デザイン)プログラムを提供することにより、リーダーシップと共に、参加者それぞれがおかれている立場の役割に関するアドボカシーを強化することにあります。参加者である日本と豪州においてプライマリ・ケア領域で勤務する看護師やそのステークホルダーと協議・協働を行いながら、プログラム開発を行うことにより、地域看護における看護師の重要な役割についての認識を高めてゆくことを目指します。プライマリ・ケア看護に携わるプログラムの参加者は、参加者自身が置かれている役割、状況を再確認し、プログラムを受けることによって参加者それぞれにおけるリーダーシップを理解し、今後のアクションプランを計画することを目的としています。随時、活動の更新を行っていきますので、ご期待ください。

プログラムパートナーである Australian Primary Health Care Nurses Association (APNA) からホームページへの記載をしていただいています。
APNA welcomes Japan Australia collaboration grant funding

日豪基金からのプレスリリース
Australia-Japan Foundation grants recipients 2025-26 | Australian Minister for Foreign Affairs

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