地域在宅ケアと災害

広島県内の訪問看護ステーションにおける災害準備性を高めるためのフォローアップ調査

【研究概要】

 日本は災害大国であるにも関わらず、訪問看護ステーションの看護実践では、災害対応の準備性を高める教育や研修内容に取り組むことは、必須とされていません。
 本研究では、1.広島県内の訪問看護ステーションの災害準備性(これから起こりうる災害に備えて、災害時の活動指針や他機関と定期的に連絡連携を実施していくこと)をアセスメントし、その準備性を上げるための教育ニーズを明らかにし、2.教育ニーズを満たすための教育研修プログラムの枠組み開発を行います。
 この研究を行うことによって、対象者の災害準備性とそれに対するニーズを明らかにします。さらに、研究対象者が、ステークホルダーと災害準備性に関するコミュニケーションを継続・活発化させることにより、ステーションの災害時における組織対応能力の構築を支えることにつながると考えています。

【方法】

フェーズ1:アンケート調査
広島県内の訪問看護ステーション223件に勤務する専門職員を対象とし、アンケート調査を行います。質問の大項目は1)訪問看護ステーションの概要と属性;2)回答者の属性(職種、ポジション、訪問看護領域での経験期間、看護教育歴、災害に関する教育・研修を受けた経験の有無、過去に災害に遭遇した経験の有無);3)災害対策の実施内容;4)災害時の関係機関・関係職種との連携 ;5)災害時の行政・災害拠点病院その他医療 福祉関係機関との相互支援 ;6)2018年の災害によって改善・変更した災害対策の内容;7)災害対策についての不安や思い(自由記述)です。

フェーズ2:インタビュー調査
アンケート調査上で同意が得られた後に、研究の説明を再度行い、聞き取り調査を実施します。(半構成面接法)

フェーズ3:デルファイ法によるミーティング
上記の1と2の結果を基に、デルファイ法を用いながら教育担当やマネージメント担当の看護師にミーティングを実施し、ニーズのある教育研修プログラム枠組みを開発します。

【進捗状況】

アンケートの集計と分析、結果と考察のまとめ(フェーズ1)終了
聞き取り調査後、逐語録をNVIVO に取り込みカテゴリー、サブカテゴリー化を実施し、結果と考察のまとめ(フェーズ2)終了

【結果】

フェーズ1:アンケートの回答数は89(39.9%)でした。事業所の職員規模は10名以下が61.8%、回答者の39.3%が過去に災害に遭遇しています。災害に関する教育や研修は、56.2%の回答者が受けていました。災害対策は、災害対策マニュアルやBCPを67.4%がしており、その内容は「職員緊急連絡網(90.0%)」が一番多かったです。また、研修経験の有無と有意差のあった質問項目から以下の結果が得られました。
・災害経験のある人は、研修経験のある人が多い
・防災マニュアルのある職場の人の方が、研修経験のある人が多い
・職域での経験が長い人の方が研修経験のある人が多い

回答者の災害に関する状況

また、アンケートでは、組織が小さくスタッフ数も限られている労働環境から災害に対する準備をどのように進めたらよいかわからない、時間がないという組織も半数近くを占めました。災害対策マニュアル以外の防災に関する取り組みでは、「防災看護に関する研修やセミナーへの参加」が一番多かったです。自由記述では、不安も記述されていましたが、今後の取り組みへの前向きな姿勢も書かれていました。

フェーズ2:5名の訪問看護師へインタビューを実施しました。参加者の職位は、管理職4名、スタッフ1名でした。災害を経験した参加者は、5名中4名でした。
逐語録をNVIVO に取り込みカテゴリー、サブカテゴリー化を実施し、以下の4つのカテゴリーが抽出されました。

  1. 【事前準備】
    《訪問看護と災害看護とのつながり・理解》、《何かあった時のリスクマネージメントは小規模ならでは》、《設置母体と教育の在り方》
  2. 【これからの課題】
    《ステーションの横のつながりの必要性》、《訪問看護と介護の連携と知識の乖離》、《受援の受け方》
  3. 【管理者としての責任】
    《倫理観と正義感》、《災害後の対応》、《心のケアの在り方》
  4. 【予想しなかった災害の経験】サブカテゴリ―の抽出なし

【提案】

ステーションは、単独経営している施設から設置母体があるものまで、経営の規模に差があり、災害により経営困難に陥る施設もあります。また、訪問看護ステーション同士のつながりも少ないということから、日頃からの近隣でのネットワークの形成、または既存のネットワークの強化と共に、他・多職種との連携を深めながらの情報交換の機会を継続することが必要だと考えられます。さらに、経営団体としてのBCPの研修機会などのニーズに応える必要があると考えます。

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